――箱庭―― ゆらりゆらり 揺れる水面に 人の悲しみを 浮かべながら 僕はこの手で 澄んだ水面を そっとすくってみるのです きっとまた会える そう思っていたけれど おそらくそれは 若かった頃の世間知らず この世はあまりにも広く 息づく焔は青い 小さな星を包んでは 私に悲しみを伝えるのです 君は今 どこの雪のなか 足を運んでいるのでしょうか そこに命はありますか? 悲しみだけではありませんか? 僕はビルの谷間で 陰ることのない太陽を見上げています その優しさがあまりに眩しく 虚ろな僕の空っぽの心 残酷なほどに照らしてしまうけれど 決して野蛮だとは思わないのです 流れる涙の訳は知らないけれど 吹きぬく風は痛いくらいに温かい 抱いている紙風船 小さく音を立てて 僕の手の中で くるりと身を翻す この世の何もかもが 甘く漂っています 悲しみの水面の中 無意味に手を伸ばしてみては すくった欠片 セロハンに包む まるでキャンディのようです この空も もう見れぬのです なにもかも砂糖菓子のように曖昧 そうして僕は 今日も愛するものの隣で 静かに息をつくのです 君は今 何処にいるのですか? 何十という数え切れぬ人の住むこの世界は まるで砂浜に打ち付ける 非情な波 一つ一つに物語があるはずなのに すっと通り過ぎてしまう 僕はその只中で 何億という星の数 何億という時間の数 何億という人の中で 一時でも君に出会えたこと 感謝したいと思っています もう会えぬとしても 私の足元広がる悲しみの湖は 今ここに生きる全てに打ち寄せているのです きっとその力強かった足にも 白はあまりに青く あまりに残酷に あなたの前に広がっているでしょう 白は全てを塗り潰し 強い意志をも砕くでしょう しかし今、私の前には 眩いばかりに美しく広がっているのです 窓辺に佇むカーテンも 壁に溶けた額縁も あなたの面影を隠すように 僕に寄り添ってくれます 泣いてもいいと 僕に囁きかけます 真っ白な箱庭の中 壊れてしまった人形のように 泣いていた僕はもういない 温かい陽射しを見つけたのです 久しく開け放っていなかった窓の外には ダイアモンドをちりばめた海が 澱んでいた空気と入れ替わりに さわやかな潮風が吹き込んできて 僕の心の中そっと忍び込んで 傷に滲みました 僕はそっと 胸を抱いて 潮風に誘われるまま 箱庭を飛び出したのです 今 あなたの居場所はどこですか? 僕はもう帰らないけれど あの場所は開けておきます 帰って来たら あの頃と同じように 覚めるような海を白く切り取った窓辺に佇み 小さな紙飛行機を飛ばしてください 僕の心に届くときには このひりつく痛みも癒えているでしょう 打ち寄せる水面を見つめ 僕は今日も手を伸ばします 何処から来たのか 誰のものなのか 冷たすぎる水の逃げた手の中 悲しみの欠片が あなたがいなくてももう大丈夫 手にしたそれに唇を寄せては 癒えることを祈りながら きょうも柔らかく包んでやります すこしは役に立てているのでしょうか 僕の胸 宿った愛と切なさが 「早く戻っておいで」 猫が呼ぶのです 行かなければ 私の居場所 「泣いているの?」 猫は月のような目を僕に向け 僕はそう呟くのです さあ 寝る時間 未練などありません 今はただ 今日の日を感謝しましょう 明日 また目が覚めたら 再び巡る日を感謝しましょう そうして悲しい僕たちは 愛を紡いでいくのです そこに命はありますか? 悲しみだけではありませんか? 君は今 何処にいるのですか? 高校時代の作品