クインテットビショップの還幸

第13話 黒薔薇!--/CHAPTER_TITLE-->





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 ある、美しい国に王女さまがおりました。

 黒い髪に鳶色の瞳。

 それはあまりに美しく、彼女は誰の目にも触れぬよう、森の塔でひとりだけ、大事に大事に育てられました。

 訪れるのは従者だけ。

 彼女の友達は鳥や獣。

 けれどある日この塔に、一人の少年が現れました。

 少女を哀れに思った少年は、彼女を連れて塔を出たのです。

 くるくる、くるくる巡る世界。

 彼女は呟きました。

《まぁ、なんて素敵なのでしょう! これが私の愛する世界なのですね》

 しかし、世界の端っこでは、絶えず血が流されていました。

 気付き嘆いた彼女は、しなやかな手に剣を取り、慕う民衆の前に立ちました。

 今や、彼女の側には、たくさんの人がいた。

 精悍に育った青年の元、彼らは国の為、美しい彼女の為に、おのが剣を振るいました。

 流れる血潮。

 けれど、誰もが恐れません。

 彼女の元、集った者たちは大きく膨れ上がり、立ち塞がる敵を圧倒しはじめていました。

 そんな時、美しい王女様は、敵の手に落ちてしまうのです。

 囚われた彼女を取り戻そうと、駆け回った青年。

 深緑湛える森深く。

 彼が見つけたのは、もはや動かぬ彼女の姿。

 傍らには、共に息絶えた、狼の姿がありました。

 森の主でしょう。

 美しい、美しい狼でした。

 悲しんだ彼は、彼女の亡きがらを、泉へと沈めました。

 その瞬間、泉はキラキラと輝きを増し、森がざわめき、獣たちが泣いたのです。

 後、この地には都が置かれ、名をリンデンと呼び、彼女は親愛を込めて《黒薔薇》と呼ばれました――。
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